2026年2月20日、ファンペップ(4881)は、第三者割当による新株式および第13回新株予約権(行使価額修正条項付)の発行を公表しました。今回の資金調達は、単なる増資として片づけるにはやや複雑で、新株発行とMSワラント型の新株予約権を組み合わせた、いわゆるPIPES型の色合いを持つスキームとして見ると全体像がつかみやすくなります。表面的には「成長資金の確保」という前向きな材料に見えますが、希薄化率、行使条件、貸株契約、割当先の属性まで確認すると、投資家にとっても既存株主にとっても見逃せない論点がいくつもあります。
この記事では、ファンペップの第三者割当について、調達額はいくらなのか、希薄化はどの程度なのか、なぜ新株だけでなく新株予約権を組み合わせたのか、そして今回のスキームを資本政策としてどう評価すべきかを、一次資料ベースで整理していきます。第三者割当増資やMSワラントを読み解く際の基本的な視点もあわせて押さえながら、今回の案件の意味をできるだけ構造的に見ていきます。
ファンペップの第三者割当の概要
新株発行の条件
まず新株式の発行条件を見ると、発行株式数は352,900株、発行価額は1株85円、割当予定先はネクスト・グロース株式会社、払込期日は2026年3月9日とされています。新株部分の調達額は29,996,500円で、第三者割当の方法によって実施されます。これだけを見ると金額はそれほど大きくありませんが、今回の資金調達の本体はこの新株部分ではなく、むしろ後段の新株予約権の方にあります。
第13回新株予約権の条件
第13回新株予約権は97,500個発行され、潜在株式数は9,750,000株です。払込金額の総額は2,535,000円、割当予定先はグロース・キャピタル株式会社で、権利行使期間は2026年3月9日から2028年3月8日までとされています。当初行使価額は85円ですが、行使価額は固定ではなく、各行使請求の効力発生日の直前取引日の終値の92%に修正される仕組みです。もっとも、下限行使価額は47円とされており、株価が下落した場合でも無制限に下がる設計ではありません。
このように、今回の第三者割当は「新株352,900株」と「潜在9,750,000株の新株予約権」を組み合わせた構造であり、資金調達額の大半は新株予約権の行使によって実現する前提になっています。見た目は一つのファイナンスでも、中身としては即時に入る資金と、将来の株価水準に応じて段階的に入る資金が混在しているわけです。
調達額と資金使途をどう見るか
想定調達額は約8.5億円
開示資料では、新株部分29,996,500円と、新株予約権の払込金額および行使による資金を合算したうえで、発行諸費用を差し引いた差引手取概算額は851,281,500円とされています。つまり、最大で約8.5億円規模の資金調達ということになります。ただし、ここで重要なのは、この数字が新株予約権の全量行使を前提としたモデル値である点です。行使価額は株価に応じて修正されるため、株価が下がれば実際の調達額は目減りする可能性がありますし、逆に行使が十分に進まなければ、想定通りの資金が入らない可能性もあります。
資金使途は研究開発の継続が中心
資金調達の目的として会社が掲げているのは、新規化合物の創出・開発に必要な研究開発資金、SR-0379やFPP004Xを含む研究開発を推進するための人件費、さらに研究開発体制を維持するための事業運営資金の確保です。ファンペップは大阪大学の研究成果を活用する創薬系ベンチャーであり、塩野義製薬との提携のもとで皮膚潰瘍を対象とするSR-0379、花粉症を対象とするFPP004Xという二つの開発プロジェクトを進めています。したがって、今回の第三者割当は、赤字補填というより、研究開発パイプラインを前に進めるための資金確保という位置づけで理解するのが自然です。
希薄化率24.9%の意味
既存株主への影響は小さくない
今回のファイナンスで最も注目すべき数字は、やはり希薄化率です。開示資料では、今回発行される新株式および新株予約権による潜在株式数を合算した場合、既存発行済株式総数に対する希薄化率は24.90%、議決権ベースでは24.91%とされています。既存株主から見れば、持分が約4分の1近く薄まる可能性があるということですから、決して軽い水準ではありません。
25%未満に収めた設計意図
もっとも、この数字は偶然ではなく、かなり意識的に設計された可能性があります。なぜなら、第三者割当においては25%という水準が実務上の一つの節目になりやすく、企業行動規範上の追加的な説明や手続が意識されるラインだからです。24.9%という数字は、その一線をわずかに下回る水準であり、資金調達額と手続負担のバランスを取った結果と見ることができます。言い換えれば、希薄化を極力抑えたというより、「必要資金を確保しつつ、25%未満に収めた」と読む方が実態に近いでしょう。
MSワラント型スキームとしての特徴
行使価額修正条項が意味するもの
今回の第13回新株予約権は、行使価額修正条項付、いわゆるMSワラント型です。このタイプの新株予約権は、株価が高い局面では高い価格で行使され、株価が低い局面では安い価格で行使されるため、発行会社にとっては市場環境に応じた柔軟な資金調達手段になります。一方で、株価が下落すると同じ株数でも調達額が減りやすく、さらに投資家が取得株式を売却していく過程で需給悪化が意識されやすいという特徴があります。資金調達の自由度と、株価・需給への圧力が表裏一体になっているのがMSワラントの本質です。
取得株式は速やかに売却予定
今回の開示資料では、割当予定先であるグロース・キャピタルが、行使によって取得した株式を長期保有する意思はなく、速やかに売却する予定であることも示されています。これは投資家が経営権取得を狙うというより、あくまで金融投資として本件に参加していることを意味します。PIPESの文脈で見ると、典型的な「資金供給+市場売却型」のファイナンスであり、企業価値向上ストーリーと株式需給の関係を分けて考える必要があります。
割当先と貸株契約から見える実務上の論点
割当先はネクスト・グロースとグロース・キャピタル
新株の割当先はネクスト・グロース株式会社、新株予約権の割当先はグロース・キャピタル株式会社です。開示資料では、ネクスト・グロースはグロース・キャピタルの兄弟会社とされており、実質的には同一グループによる引受と理解できます。新株を別法人にし、新株予約権を別法人にする設計は、実務上は珍しくありませんが、外形上の整理ではなく、グループ全体としてどういう投資スタンスで入っているかを見た方が実態をつかみやすい場面です。
代表取締役からの貸株も付いている
さらに本件では、代表取締役社長である三好稔美氏から、割当先に対して最大100万株の貸株契約が設定されています。貸株料は年0.1%、担保はなしとされています。貸株契約は、投資家側の売却オペレーションを円滑にする目的で設けられることが多く、需給面を考える際には無視できません。資金調達に成功したかどうかだけでなく、その後の株価形成にどう影響するかまで含めて見るなら、この貸株条件も重要なチェックポイントです。
ファンペップの第三者割当をどう評価するか
今回の第三者割当は、研究開発型ベンチャーとして必要な資金を確保するための合理性を持ちながらも、既存株主にとっては24.9%という希薄化、MSワラント特有の需給懸念、そして貸株契約を伴う点で、決して軽く見てよい案件ではありません。資本政策として整理すると、「研究開発を止めないための資金確保」と「その代償としての希薄化・売却圧力」を受け入れたファイナンスという位置づけになります。
第三者割当増資を評価するときは、調達額だけを見ても本質はわかりません。誰が引き受けるのか、どの条件で株式化されるのか、既存株主の持分はどこまで薄まるのか、そして資金使途が企業価値向上につながるのか。この四つを並べて初めて、良い増資なのか、苦しい増資なのかが見えてきます。ファンペップの今回の事例は、PIPESやMSワラントを学ぶうえでも分かりやすいケースであり、日本の成長企業の資本政策を考えるうえで一つの教材になる案件と言えるでしょう。
まとめ
第三者割当増資は、上場企業が特定の投資家に新株を発行して資金調達を行う方法で、公募増資と比べて迅速に資金を確保できるという特徴があります。一方で株式数が増えるため既存株主の持分は希薄化します。そのため増資を評価する際には、調達額だけでなく希薄化率、割当先の属性、資本業務提携の内容などを総合的に確認することが重要です。近年はPIPES(Private Investment in Public Equity)と呼ばれる市場外投資の形で海外投資家が日本企業に資金を供給するケースも増えており、資本政策を理解するうえで重要なテーマとなっています。
希薄化率の考え方については
希薄化率の計算方法
の記事でも詳しく解説しています。









