山善、AP系ファンドへ約280億円の転換社債型新株予約権付社債を第三者割当
2026年2月12日、東証プライム上場の株式会社山善(証券コード:8051)は、AP PS IV S1, L.P.を割当先とする第三者割当による第1回無担保転換社債型新株予約権付社債の募集を発表しました。
本件は、普通株式を直ちに発行する第三者割当増資ではなく、将来、一定の条件で普通株式へ転換される可能性がある転換社債型新株予約権付社債(CB)を用いた資金調達です。発行価額の総額は28,006,979,000円で、約280.07億円規模の大型ファイナンスとなります。
上場企業である山善が、特定の投資ファンドに対して市場外で資本性のある証券を割り当てるという点では、PIPES(Private Investment in Public Equity)的な性格を持つ取引と整理できます。ただし、日本の開示上の正式名称は「第三者割当により発行される転換社債型新株予約権付社債」であり、PIPESはあくまで資本政策上の見方として位置づけるのが適切です。
取引の概要
今回、山善が発行するのは「第1回無担保転換社債型新株予約権付社債」です。社債として発行される一方で、将来的に株式へ転換される可能性があるため、既存株主にとっては潜在的な希薄化要因となります。
- 発行会社:株式会社山善
- 証券コード:8051
- 取引種類:第三者割当による第1回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行
- 割当先:AP PS IV S1, L.P.
- 発行価額の総額:28,006,979,000円
- 転換価額:1株あたり1,543円
- 割当日/払込期日:2026年3月3日
- 潜在株式数:18,132,800株
AP PS IV S1, L.P.は、アドバンテッジパートナーズがサービスを提供するファンドです。本件は、単独の資金調達というよりも、山善とアドバンテッジパートナーズとの事業提携を含む資本政策の一部として見るべき案件です。
価格・条件の整理
本新株予約権付社債の転換価額は1株あたり1,543円です。これは、取締役会決議日前営業日の終値1,503円に対して2.66%のプレミアムを付した水準とされています。
- 転換価額:1,543円
- 2026年2月10日終値:1,503円
- 終値に対するプレミアム:2.66%
- 1カ月終値平均に対するプレミアム:5.18%
- 3カ月終値平均に対するプレミアム:4.97%
- 6カ月終値平均に対するプレミアム:7.15%
第三者割当では、発行価格や転換価額が市場価格に対してディスカウントされるケースもありますが、本件では市場価格に対してプレミアムが付された条件となっている点が特徴です。
このため、単純なディスカウント増資とは異なり、既存株主に対して「安値で大量の株式を割り当てる」構造ではありません。ただし、将来すべて転換された場合には相応の株式数が増加するため、希薄化リスクそのものがなくなるわけではありません。
調達資金の使途
山善は、本件で調達する資金について、自己株式取得、M&A、成長戦略投資に充当する方針を示しています。
- 自己株式の取得:150億円
- 事業拡大のためのM&A資金:120億円
- 成長戦略加速投資:9億8,500万円
特に注目されるのは、調達資金の大きな部分が自己株式取得に充当される点です。山善は、資本効率の向上、株主還元の充実、転換社債型新株予約権付社債の転換等による株式需給への影響緩和を目的として、自己株式取得を実施する方針を示しています。
つまり、本件は「CB発行による潜在的な希薄化」と「自己株式取得による株式需給・資本効率への対応」を組み合わせた資本政策と見ることができます。
希薄化率と既存株主への影響
本新株予約権付社債がすべて転換価額1,543円で転換された場合、交付される普通株式数は18,132,800株となります。
会社開示によれば、すべて転換された場合の発行済株式総数に対する割合は19.03%、総議決権数に対する割合は21.18%とされています。
- 潜在株式数:18,132,800株
- 発行済株式総数に対する割合:19.03%
- 総議決権数に対する割合:21.18%
この水準は、東京証券取引所の第三者割当に関する実務上、特に意識される25%ラインには達していません。ただし、議決権ベースで20%を超えるため、既存株主にとって無視できない希薄化インパクトがあります。
希薄化率の考え方については、以下の記事でも詳しく整理しています。
アドバンテッジパートナーズとの事業提携
本件は、資金調達だけでなく、アドバンテッジパートナーズとの事業提携と一体で実施される点が重要です。
山善は中期経営計画「PROACTIVE YAMAZEN 2027」において、価値創造の深化、グローバル展開の加速、営業活動の高度化、経営基盤の強化、サステナビリティ経営の強化を掲げています。
その実行にあたり、アドバンテッジパートナーズの経営支援、グループネットワーク、情報提供、顧客紹介などを活用することを想定しています。
この点から、本件は単なる資金調達ではなく、外部ファンドの知見と資本を取り込みながら、事業成長と資本効率の改善を同時に狙う取引と見ることができます。
PIPES的に見た本件の位置づけ
普通株式型ではなく、CB型のPIPES的取引
PIPESとは、上場企業が公募増資などの公開市場を通じた資金調達ではなく、特定の投資家に対して株式や新株予約権、転換社債などを割り当てる資金調達手法の総称です。
本件は、普通株式を直接発行する第三者割当増資ではありません。発行されるのは転換社債型新株予約権付社債であり、将来、転換された場合に株式が発行される構造です。
そのため、本件は「普通株式型PIPES」ではなく、CB型、または転換社債型のPIPES的取引として整理するのが自然です。
MSワラントとは異なる点
本件は、一般にMSワラントと呼ばれる行使価額修正条項付新株予約権とは異なります。
MSワラントでは、株価の変動に応じて行使価額が修正される仕組みが採用されることがあります。一方、本件は転換価額1,543円が設定された転換社債型新株予約権付社債であり、開示資料上、MSワラント型のような行使価額修正条項を前提とする案件ではありません。
したがって、本件を「MSワラント型PIPES」と表現するのは適切ではありません。正確には、第三者割当によるCB発行を活用した資本政策と整理すべきです。
25%ルールとの関係
第三者割当による資金調達では、希薄化率が25%以上となる場合や、支配株主の異動を伴う場合に、上場規則上、株主意思確認や第三者委員会等による意見入手が問題となります。
本件では、すべて転換された場合の発行済株式総数に対する割合は19.03%、総議決権数に対する割合は21.18%とされています。そのため、25%を超える希薄化を伴う案件ではありません。
もっとも、議決権ベースで20%を超えるため、既存株主にとっては大きな資本構成の変化を伴う取引です。資金使途、事業提携の実効性、自己株式取得との組み合わせを含めて評価する必要があります。
証券用語ミニ解説
転換社債型新株予約権付社債とは
転換社債型新株予約権付社債とは、社債に新株予約権が付された金融商品です。投資家は、一定の条件に基づいて社債を株式に転換できます。発行会社にとっては、資金調達時点では社債として資金を受け入れ、将来転換された場合には株式資本に変わる可能性がある点が特徴です。
希薄化とは
希薄化とは、新株発行や新株予約権の行使、転換社債の株式転換などによって発行済株式数が増加し、既存株主の持分比率や1株あたり利益が低下することをいいます。
PIPESとは
PIPESとは、上場企業が特定の投資家から市場外で資金を調達する取引の総称です。日本では正式な法令上の分類名というよりも、第三者割当増資、新株予約権、転換社債などを用いた上場企業の私募的な資本調達を説明する際に使われる概念です。
まとめ
山善によるAP PS IV S1, L.P.への第三者割当CB発行は、約280.07億円規模の大型ファイナンスです。普通株式を直ちに発行する第三者割当増資ではなく、将来の株式転換を伴う転換社債型新株予約権付社債を用いた点が特徴です。
調達資金は、自己株式取得、M&A、成長戦略投資に充当される予定であり、アドバンテッジパートナーズとの事業提携と一体で実施されます。そのため、本件は単なる財務補強ではなく、資本効率の改善、株主還元、成長投資、外部ファンドの経営支援を組み合わせた資本政策と見ることができます。
一方で、すべて転換された場合の発行済株式総数に対する割合は19.03%、総議決権数に対する割合は21.18%とされており、既存株主にとっては相応の希薄化インパクトがあります。
本件は、MSワラント型ではなく、CB型のPIPES的取引として整理するのが適切です。今後は、自己株式取得の進捗、M&Aの実行状況、アドバンテッジパートナーズとの提携効果が、企業価値向上につながるかどうかが注目点となります。
PIPESについてもっと詳しく知りたい方へ
PIPESの仕組みや活用方法について、詳しくはPIPES(パイプス)とは?をご覧ください。
第三者割当増資の基本は、第三者割当増資とは?で解説しています。
希薄化率の計算方法は、希薄化率の計算方法をご覧ください。
参考開示資料
株式会社山善「第三者割当により発行される第1回無担保転換社債型新株予約権付社債の募集に関するお知らせ」










